第一話:足元だけが、あの頃のまま

ハーフノンフィクション

白リブソックスの編み目を、俺は一目で見分けられる。
たとえ人混みの中でも、遠くのホーム越しでも。
それが“俺の好きなやつ”かどうかなんて、
ほんの一瞬、足元を見ればわかる。

その日、駅前のロータリー。
時間調整でベンチに座っていたときだった。
買ったばかりのアイスコーヒーを片手に、ぼんやり人の流れを眺めていた。

ふと視界に入った、一本の足。
ヒールでもなく、パンプスでもなく、地味な黒のスニーカー。
けれど、そこからチラリと覗く白――
分厚いリブ織りの白ソックスが、俺の意識を一瞬で掴んだ。

しかも、それはただの白じゃない。
くっきりとした縦リブ。足首でくしゅっとたるんだ形。
何度も洗濯されて、少しだけ生地が毛羽立っている。
日常使いされてる白リブ。これが、一番エロい。

思わず顔を上げると、そこにいたのは――

「……晶子?」

足元ばかりを見ていたせいで、顔を確認するのが遅れた。
だけど、見た瞬間にわかった。
8年ぶり?いや、もう少し経ってるかもしれない。
最後に会ったのは、たしか彼女が就職した直後だった。

「……え? 高ちゃん?」

驚いたように目を丸くした彼女が、ゆっくり笑った。

「うそ……ひさしぶり……!」

声も、目元のシワの寄り方も、なにもかもが懐かしいのに
一番変わってなかったのは――やっぱり、あの白リブソックスだった。


「ちょっとだけ時間あるなら、お茶でもどう?」

そう言ったのは俺だけど、
本当はただもう一度、あのソックスを正面から眺めたかっただけかもしれない。

カフェに入り、向かい合って座る。
テーブルの下、スカートのすそから覗く白い足元を、俺は隠すように盗み見る。

人妻になっても、変わらない白ソックス。
でも、それが逆に俺をゾクゾクさせた。
“誰かのもの”になった足元。
脱がされず、夫の前でも履いているであろうリブソックス。
そのまま……俺の視界の中にある。

晶子は今、人妻。子持ち。
でも、俺はバツイチ。金もある。時間もある。
そして――あの白ソックスに欲情してしまう最低なフェチ持ちの男だ。

だけどこの瞬間だけは、思ってもいいだろ。

ああ、やっぱり晶子の足が――いちばん、いい。

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